社外取締役からの提言

左から 社外取締役 井上正隆、社外取締役 河野純子、伊藤三奈、栗原道明
DyDoグループの存在意義と事業ポートフォリオ戦略
—各事業の状況が大きく変わる中、現在の当社グループのポートフォリオ経営について、どう考えていますか。
「中期経営計画2026」はグループミッション2030の「成長ステージ」の位置付けですが、国内飲料事業が苦戦を強いられる中、次の「飛躍ステージ」を迎えるために何が必要かという意見を出しています。ポートフォリオ経営で重要なのは、ガバナンス体制やリスクマネジメント体制の構築、人事問題だけではありません。今の当社グループでは、長きにわたり培ってきた既存事業について発想の転換が求められており、新しいステージにおける会社の存在意義や未来を見据え、なぜその事業を行うのか、どのような価値を提供していくのかを、再考する時期に来ています。
そうですね。「グループミッション2030」でめざす姿に照らして現在のポートフォリオ経営を見ていくと、海外飲料事業と、希少疾病用医薬品事業に注力していくことは理にかなっています。しかしながら、これらのビジネスは、これから先も長期的な投資が必要であるため、やはり必要なのは、グループとして投資を続けることのできる体力です。そのために、本来キャッシュを生むはずの国内飲料事業の立て直しが急がれます。キャッシュ創出ができなければ、どんなビジョンもミッションも絵に描いた餅になりますから。また、今は順調な海外飲料事業も、その継続性は不確実です。単に利益を追求するだけではなく、当社が海外でビジネスを展開する意味を突き詰めていってほしいと思います。その上で、当社グループの事業活動を通じて「世界中の人々の楽しく健やかな暮らしをクリエイトするDyDoグループへ」を実現していくよう努めるべきです。
基本方針の一つ「国内飲料事業の再成長」については井上さんが取締役会でリーダーシップを持って発言されており、私たちも共感しています。現在の国内飲料事業の苦戦要因の一つは原材料価格の高騰であり、特に主力のコーヒーの原価が上がる中で、今後どのような商品で当社ならではの価値を提供していくか、あらためて議論が必要だと感じています。一方、スマート・オペレーションは当社の強みです。引き続き進化を続け、オペレーショナル・エクセレンスを発揮することが重要になると考えています。また、海外飲料事業についても、グループとしての本当の強みは何なのかを考える必要があると思います。例えば、創業時から受け継いできた共存共栄の精神や、先ほど申し上げたオペレーショナル・エクセレンスといったものが、海外飲料事業においても強みとして挙がってくると考えています。
希少疾病用医薬品事業においては、2025年1月にファダプス®の販売を開始しました。医薬品事業への参入を検討し始めたのは2017年。当時の事業規模や経営資源を踏まえ、一般薬やジェネリックではなく、高い社会的意義と専門性を持つ希少疾病用医薬品を取り組みの中心に据えました。その後、2024年9月に、2019年の新会社設立からわずか5年、製品導入決定から3年で新薬の製造販売承認を取得したスピードは、業界関係者も驚くほどの速さでした。希少疾病の治療法がなく苦しんでいる患者さんに、ダイドーファーマの薬をお届けできる。これはまさに当社がめざす「世界中の人々の楽しく健やかな暮らしをクリエイトする」好事例だと思います。
—事業ポートフォリオの利益構造が変わる中で、経営資源の配分も変わるのでしょうか。
海外飲料事業は好調であり、現時点では営業利益において国内飲料事業を上回る状況となっています。井上さんがおっしゃるように、この海外飲料事業の業績の継続性については見極める必要がありますが、ポートフォリオ経営の視点からは、こうした成長分野に対して経営資源を配分・投下していくことが重要です。ただし、経営資源には限りがありますから、既存事業と新たな成長分野のいずれにどう配分するかが、当社グループにとって極めて重要な意思決定ポイントとなります。
そうですね。また、経営資源そのものを強化するという観点では、やはりキャッシュを稼ぐべき国内飲料事業は盤石でないとなりません。私は9年前に当社の社外取締役に就任しましたが、その当時の中期経営計画は、基本的に「前より良くしよう」というMoreやBetterが中心の内容でした。その後、提言を続け、「他社を圧倒する競争優位性をつくりましょう」というところまで来ましたが、大事なのは、その具体的な内容です。どういう姿になれば圧倒的な優位性が持てるのか。当社の強みを研ぎ澄まし、その究極の姿とはどのようなものなのかを具体的なイメージで共有する。それを実行していくことで経営資源が強化され、海外飲料事業をはじめとした、グループとしてやりたい事業に投資できるようになると思います。この辺りの優先順位付けの議論は、引き続き行っていく必要性を感じています。
持続的な成長に向けた人的資本経営
—「DyDoグループがめざす人的資本経営」については、どのように考えていますか。
現在のような変革期においては、変革をリードできる多様なプロフェッショナル人財の活躍が必要不可欠であり、グループ全体での育成や登用、そしてエンゲージメントの向上が非常に重要です。そうした前提のもと、2024年4月に発表した「DyDoグループがめざす人的資本経営」においては、一人ひとりの主体的なキャリア形成を支援する仕組みとして「DyDoキャリア・クリエイト」を導入しました。部門や会社を超えた人財の流動化は今後の課題ですが、「新たなスキルを獲得するために隣の部門の仕事をやってみたい」「国内で働いてきたが、海外に挑戦してみたい」といった意欲を喚起し、手を挙げることができる制度を整えていきます
外資系事務所に長くいた私には、こうした日本企業の人財を中長期的に育てる仕組みや風土は、とても魅力的に映ります。一方で、外資系のように、事業ポートフォリオやビジネスモデルの変化に応じて必要な人財を揃え直すアプローチにも合理性はあると思います。例えば、自販機ビジネスでも、オペレーション全般の改善に注力するのか、AI機能の進化に特化するのかで、必要な部隊は変わってきます。そうなると、自ずと育成や採用のコンセプトも変わります。河野さんがおっしゃる通り、長期的な人財育成の仕組みはDyDoの持ち味の一つですので、その中で、今後の戦略に必要な人財ポートフォリオの目線も持ち、従業員も会社のビジョンや事業の方向性にあわせて会社と共にステップアップしよう、新たなポジションにも手をあげよう、という風土ができればよいと思います。
そうですね。その点、私は人財戦略の中でも、特に、海外飲料事業拡大の経営戦略下では、ある程度の塊として海外人財が必要であり、そのための育成や採用が急務だと考えています。例えば、海外要員選抜制度をつくり、チャレンジしたい人財をグローバルに活躍するリーダー候補として育てることも一つの方法です。「DyDoキャリア・クリエイト」でも掲げる「志」の高い従業員は、昨日よりも今日、どれだけ成長しているかを考えます。それを実現できる環境を整えることは、従業員の自己実現を後押しすると同時に、企業にとっても中長期的な競争力強化につながると確信しています。
必要な能力という観点では、やはり人財戦略の中でも掲げる「マネジメント力の強化」は重要だと思います。ビジネスのベースである基本のPDCAを回すということが、どういうことかわかっていれば、たとえ海外事業や新規事業に取り組む時でも応用が利き、あとは当該ビジネスの知識を得れば活躍ができます。また、このマネジメント力というのは、社内のどの部門にいても訓練ができる点も、特徴だと思います。
人的資本経営の観点では、人財戦略だけでなく、DE&Iや労働環境・企業文化といった、組織の環境の整備も重要ですよね。ホールディングスの取締役会はダイバーシティが進んでいますが、グループ各社でも若手や女性、シニアなど多様な視点を持つ人財が、活躍できる風土が整っていくことを期待しています。
シニア専門人財に関して、実際に、先ほどのダイドーファーマが成果を収めた背景には、業界での豊富な経験を有する人財を結集し、その知見やスキルが組織内で適切に発揮される体制を整えた点が挙げられます。このような人財が力を発揮できる場を設けることは、組織にとって重要な視点の一つです。多くのシニア人財にとっては、社会との継続的な関わりや、自身の経験が生かされているという実感が、働きがいや生きがいにつながると考えられます。一方で、将来的に組織の中核を担う若手人財の育成も極めて重要です。若手の成長には時間を要するため、シニアと若手が互いに学び合い、補完し合えるような風土を醸成していくことが、持続的な組織成長の鍵となります。
社外取締役の役割と実効性の向上について
—社外取締役の役割について、どうお考えですか。
社外取締役の責務は、株主利益を増やしていくことと、不正等による株主利益の毀損を防ぐことの2つです。その中でも、株主利益を増やしていく点では、これまでお話ししてきたポートフォリオ経営について、将来のありたい姿の実現のために、何が必要でどんな手順を踏んでいくのかを、監督・助言をしています。従業員一人ひとりが、組織のめざす姿のどの部分を担い、今行っている活動がビジョンにどうつながるのか、という認識を持つことができれば、仕事へのやりがいも出てくると思います。
そうですね。井上さんがおっしゃる役割、つまり、会社の目標があり、そこに向かう執行側への監督やサポートを行うことは基本になると思います。さらに近年では、社外取締役も中長期戦略の策定において、それぞれが持つ多様なバックグラウンドを生かし、積極的に関与する役割が求められるようになってきました。当社においても、次の中期経営計画の策定の段階から、社外取締役が議論に参加することが、今後の課題であり、果たしたい役割だと考えています。
お二人に同意です。また、中長期戦略の策定後のモニタリングにおいても、全体最適を考えた客観的な視点からのサポートが必要だと考えています。これだけ変化が激しい中ですので、戦略については実行していく過程で、修正はあって然るべきです。執行側が振り上げた拳を下ろしにくい中、俯瞰的な目線からの助言というのは、社外取締役だからこそできることだと思います。
将来のありたい姿を実現するための監督やサポート、中期経営計画への策定段階からの関わりなど、皆さんに同感です。各社外取締役が多様なバックグラウンドを持つので、それぞれの専門性や経験を踏まえた異なる視点での助言も期待されていると考えています。また、井上さんがおっしゃる2つの責務については、不正等による株主利益の毀損を適法性の観点から、そして、株主利益を増やすための経営判断を妥当性の観点から、監督および積極的な助言やサポートをしていければと思っています。
—取締役会の雰囲気はいかがですか。
取締役会は時間も限られていますが、開催前の時間に髙松社長とのフリーディスカッションの場があり、様々なテーマで意見交換を行っています。例えば、先日は、不確実性の高い状況下で意思決定を行うための思考様式として「エフェクチュエーション※」が話題になり、今後の当社における事業開発の手法について議論しました。そのほかにも、グループ会社へ訪問する機会も設けられており、こういった学びや情報共有の機会があってこそ、取締役会において、当社グループの強みを整理して、より確実に事業成長を遂げていくための議論を行っていく、良い雰囲気ができていると思います。
エフェクチュエーションは、新たな価値を創造する際の実践的な思考法としても注目されており、起業家(アントレプレナー)はもちろん、既存企業において新規事業を立ち上げる際にも有効なアプローチとされています。その中でも、熟達した人財の活躍が成功の鍵であり、先ほど触れたダイドーファーマの事例は、その好例です。社外取締役それぞれの役割としては、皆さんの経験・キャリアを背景に取締役会では様々な積極的な提言を行っています。「和して同ぜず」ではないですが、ディスカッションでは、意見を忌憚なく言える雰囲気があり、非常に良いと思いますね。
そうですね。取締役会やフリーディスカッションを通じて自由闊達に話ができる、忌憚のない意見が言える場がある、そういう風通しの良さがこの会社の特徴ですね。引き続き、社内にいては見えないかもしれない外からの客観的なコメントを持ち寄れたらと思います。
社長が社外取締役の意見を積極的に聞いてくれるのはありがたいですし、私たちも意見を出しやすくなります。私たちはDyDoグループをもっと良くしたいという気持ちで日々活動しています。これからも会社の将来につながる助言をしていきたいですね。
※ 経営学者サラス・サラスバシー教授が熟達した起業家への調査をもとに提唱した意思決定の一般理論で、未来は予測不能であるという前提のもと、手持ちの資源を生かして柔軟に未来を創ることを重視する思考法